Low-Fidelity

はじまりは、何かのおわり

池袋の風に乗って

「このお店、人妻を売りにしてるけど、私は違うの。

 がっかりしたら、ごめんね。」

大丈夫です、とかむしろそこは期待してませんでしたとか、

緊張していて曖昧なことしか話す余裕がなかったこと、

受付した時点で人妻なんてキーワードはすで忘れていたことを鮮明に覚えている。

 

はじめて行くお店はなんとなくベテランに身を委ねたらいいのではないかという

甘えた気持ちがあったのかもしれない。

案内所の人に平均年齢は比較的低めと営業されたのもあったかもしれない。

なんにせよ、大学5年生の5月は、とても孤独感に溢れていて、

遠い誰かのぬくもりが欲しかった。

 

麻衣さんは、名字しか明かしてくれなかったけれども、

しかもお店で会った3回目で、とても仲良くしてくれた。

はじめて行った時の帰り際に、次に来るときは指名してほしいな。

でも、もう来なくていいからと携帯の番号を渡された。

なぜそんなことをしたのかは、最後まで教えてくれなかったけど、

後日、素直に電話をし食事をすることになり、

自分が転勤することになるまでの約半年間、おおいに遊んでもらった。

地方転勤の辞令の噂が出たときに、間違いなく最初に浮かんだけれども、

引越し後、真っ先に忘れたのも彼女のことだった。

 

たぶん、彼女に会わなければ、その後そういうお店に行くこともなかったろうし、

そういう業態で働く人にも偏見をもったままだったと思う。

ただ、浜崎あゆみの曲を好きな人がやたらと多いのは、偏見ではないはず。